八月十六日。雨ふりつゞきたれど空あかるく風なし。終日書筐を整理す。六時頃銀座尾張町に至り竹葉に入らむとする時空俄に晴れ虹あざやかに三越の建物を隔てゝ東の空に現はるゝを見たり。行人皆傘をつぼめ佇立みてこれを見て喜ぶ。(永井荷風 断腸亭日記「昭和十年」)