真の洋食は銀座二丁目の“オリムピック”
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四月初一〔旧二月二十六日〕晴れて風静なり。午前読書。午後中洲病院に往き脚気注射をなす。いつもの如く清洲橋をわたり、仙台堀の河岸つたひにやがて曲りて黒亀橋電車通に出でたれば、深川公園の裏手を流るゝ油堀の北側をまっすぐに東の方へと歩む(中略)——此横町より汐見橋際の大通に出るに春の永き日も暮果てたれば、乗合自動車にのりて銀座に至り、いつものごとくオリンピク洋食店に飯す。銀座通の商店植柳の祝をなすとて飾物をなし人出甚しければ裏道を歩みて帰る。(永井荷風 断腸亭日記「昭和七年」)
(269夜)