三月十九日。晴。燈刻銀座松阪屋店内古本展売会に往く。芭蕉文集を獲たり。帰途茶肆久辺留に立寄るに萬本君在り。今朝憲兵に寝込みを襲はれ、其本部につれ行かれ、印度の人サバロアル氏の交遊範囲につきて尋問せられし由を語る。サ氏は軍人暴動の事起りし頃国事探偵の嫌疑を受け憲兵隊本部に留置せられ今猶(なほ)放免せられざる由なり。(永井荷風 断腸亭日記「昭和十一年」)