十一月十一日。終日雨ふる。晡後断雲低く東南に向って飛ぶを見る。燈刻出でゝ土橋の榮湾に至り晩餐を食す。此夕食堂に日本人の客無く、英佛人の家族らしきものを見るのみ。佛蘭西海岸の貧しき旅亭に在るが如き思をなさしむ。珈琲の一盃を前にしパイプを銜へて黙想沈むこと暫くなり。(永井荷風 断腸亭日記「昭和八年」)