十一月二十五日。今日も好く晴れたり。読書の外為すことなし。日の暮るゝを俟ちて銀座に往き、不二アイス屋にて夕餉を食して後紅茶をキユウペルに喫す。酒泉萬本山田樋田杉野竹下の諸子在り。酒泉君知る所の某令嬢と千疋屋に入り盆栽及び熱帯産小魚を観る。小魚の価貴きもの八九拾円、廉なるものも五六円を下らず。菓子屋青柳にて名物の金鍔を焼くを見、之を購ひ〔三個拾銭也〕きゆうぺるに還る――(後略)(永井荷風 断腸亭日記「昭和八年」)